2026年03月23日

2026年2月、岐阜県関市桃紅大地に所在する鍋屋バイテック会社(以下、NBK)の「関工園」において、代表取締役社長である岡本友二郎氏(以下、岡本社長)より、事業概要のご説明ならびに工園内(未来工場、桃紅館等)の見学という貴重な機会をいただきました。
我々KBS EMBA生は、「生産政策」の授業のNBKのケーススタディを通じて、同社の「寿司バーコンセプト」に代表される多品種微量生産や、伝統と革新を融合させた経営改革について学んできました。また、岡本社長には2024年度の「経営者討論B」の授業でもご講義いただいており、KBSとは非常に縁の深い企業です。今回の訪問は、ケースや講義で得た知識を、実際の「現場」と照らし合わせ、日本のものづくりの未来を考察する絶好の機会となりました。
最初の会社紹介において、岡本社長から語られたのは、創業1560年(永禄3年)という長い歴史を持つ鋳物屋「鍋屋」の伝統と、そこから脱却し常に新しい価値を創造し続ける「バイテック(Bi-tech)」の精神でした。特に印象深かったのは、NBKが掲げる「工園」というコンセプトの真髄です。単なる生産拠点(工場)ではなく、社員が創造性を発揮し、自然と調和しながら働く場としての「公園(工園)」を目指すその姿勢は、現地を訪れることでより鮮明に理解することができました。
ケーススタディでも議論の核心となった「寿司バーコンセプト」は、作り置きをせず、顧客の注文に応じて新鮮な製品を即座に提供する仕組みですが、現場ではその思想がさらに進化している様子が伺えました。世界からの注文も増える中で、従来の多品種微量生産を発展させ、多品種・変量・短納期を実現すべく、徹底した標準化とともに、基幹システムも入れ替え、生産管理システムも更に高度化させていました。岡本社長の「我々は標準品メーカーであるが、その標準品でお客様のエンジニアリングを支えている」という言葉から、コモディティ化が進む市場においても、独自の付加価値(「選べる」という価値、短納期という価値)で勝負するという強い意志が感じられました。

続く見学では、「未来工場」や「バイテック工場」といった象徴的な施設を案内いただきました。「未来工場」では、整然と並ぶ最新の工作機械と、そこで働く社員の方々の姿が印象的でした。ここには、従来の工場のイメージである「油の匂い」や「騒音」は一切なく、美術館や研究所のような静謐さと清潔さが保たれていました。これは、「働く人の快適性を追求することが、結果として高品質な製品作りや創造的なアイデア創出につながる」というNBKの信念を体現していると感じます。
オフィスエリアにおいても、部門間の垣根を取り払ったオープンなレイアウトが採用されており、文字通り「風通しの良い」組織風土が空間設計にも反映されていました。ケースで触れられていた「大転換プロジェクト」以降、NBKは「売る力」の変革やDXを推進してきましたが、それらを推進するのは結局のところ「人」であり、その人が活き活きと働ける環境こそが競争力の源泉であることを、肌で感じることができました。

今回の見学におけるもう一つのハイライトは、敷地内に併設された岐阜現代美術館「桃紅館」の訪問でした。ここには、世界的な美術家である篠田桃紅(しのだ とうこう)氏の作品が数多く収蔵・展示されています。「なぜ、工場の中に美術館があるのか?」その問いに対する答えは、NBKの経営哲学の深層に触れるものでした。合理性や効率性を追求する「サイエンス」としての経営だけでなく、直感や美意識といった「アート」の領域を大切にすることで、社員の感性を磨き、既成概念にとらわれない発想を養う。墨と金箔、銀箔等を用いた篠田氏の前衛的でありながら日本の伝統美を感じさせる作品群に囲まれる時間は、ビジネススクールでの論理的な思考に没頭する我々にとって、右脳を刺激される非常に豊かなひとときでした。 工場の無機質な機能美と、美術館の有機的な芸術美が同居する「関工園」は、まさに左脳と右脳、論理と感性が融合する場であり、これこそが企業が目指す「永続的に繁栄し続ける企業」の姿なのかもしれません。

最後の質疑応答では、参加したEMBA生から多岐にわたる質問が寄せられました。特に、属人化を防ぐための組織運営や、WebマーケティングとDXの推進に関する議論は特徴的でした。NBKでは、部長クラスであっても異なる部署へ大胆に異動させる「トレード」のようなジョブローテーションを行っており、汎用性を追求し特定の個人に依存しない「強い組織作り」を進めています。また、マーケティングにおいても、コンテンツ制作からインサイドセールスまで役割を細分化し、データに基づいた科学的なアプローチを実践している点は、多くの企業が抱える課題に対する一つの解を示しているように感じました。
「伝統とは、革新の連続である」。 岡本社長との対話を通じて、この言葉の重みを改めて噛み締めています。「不易流行」450年の鋳造技術というコアを守りつつも、時代に合わせて製品を変え、組織を変え、文化を変えてきたNBK。その柔軟性と強靭さは、我々が今まさに構想している「30年後のビジョナリー」を考える上で、極めて重要な示唆を与えてくれました。
不確実性が高まる現代において、日本のものづくりが世界で戦い続けるための「強み」とは何か。それは、NBKのように、固有の技術(伝統)を大切にしながらも、ITやマーケティングといった新しい武器(革新)を恐れずに取り入れ、さらに「アート」のような感性価値をも経営に統合していく「総合的な人間力」としての企業力なのかもしれません。
最後に、ご多忙の中、長時間にわたり熱心にご対応いただいた岡本社長、ならびにNBK社員の皆様に、心より感謝申し上げます。今回の学びを糧に、我々EMBA生もまた、それぞれのフィールドで未来を切り拓くべく、研鑽を積んでまいる所存です。
文責:E11 田中 真二
