2026年03月19日

2025年度第2学期に開講された「デジタルテクノロジーと経営」を受講しました。本科目は、AIやIoT、ブロックチェーンといった最新のデジタルテクノロジーを単なる技術知識として学ぶのではなく、それらを経営やビジネス創造にどのように結びつけるかを多角的に考えることを目的とした授業です。
本授業は、日本IBMにおいてデジタルテクノロジーと経営の現場に携わってこられた王曦寧先生(現:農林中央金庫)、門脇直樹先生(現:ETホールディングス株式会社、Earth Technology株式会社、Cloudin株式会社 CEO 兼 代表取締役社長)により担当されました。短期的な成果や効率化にとどまらず、社会や産業の基盤を支える技術に長期的に向き合ってきた日本IBMの姿勢は、講義の随所に反映されていました。講義、ディスカッション、ワークショップ、そして多様な分野のゲスト講演を通じて、デジタル時代の経営者に求められる視座について深く考える機会となりました。
本授業の大きな特徴は、デジタルテクノロジーを単なる「業務効率化の手段」として捉える従来のICT観にとどまらず、価値観やビジネスモデルそのものを変容させ得る存在として位置づけていた点にあります。世界の経営者を対象とした調査レポートを題材としたディスカッションに加え、IBM Researchによる最新テクノロジーの紹介を通じて、生成AI、半導体、クラウド、データ基盤といった個別技術が、どのような時間軸や前提のもとで社会や産業に実装されていくのかを具体的に学ぶことができました。
特に印象的だったのは、AIを「自動化を進めるための道具」としてではなく、経営の前提や意思決定の構造そのものを問い直す存在として捉えていた点です。誰もが同様の生成AIを利用できる現代においては、AIそのものが競争優位になるのではなく、どのデータを基盤とし、どのような思想や目的のもとで活用するのかといった設計思想こそが問われているのです。講義を通じて、デジタル技術の可能性は個々の技術性能だけで決まるのではなく、経営の視点からどのように組み合わせ、どのような価値創造につなげるかによって初めて意味を持つのだと強く意識させられました。
中でも最も強く印象に残っているのが、日本IBM箱崎事業所で実施されたデザイン・シンキング・ワークショップです。このワークショップでは、顧客理解から課題設定、アイディア創出に至るまでのプロセスを体験し、機能や技術から発想するのではなく、「誰の、どのような体験をより良くしたいのか」という顧客体験中心の視点からビジネスを構想することの重要性を、実感を伴って理解することができました。また、アイディアは一度形にして終わりではなく、対話や失敗を重ねながら磨き続けることで初めて価値に近づくという点も、大きな学びとなりました。
授業全体を通して一貫していたテーマは、「AI時代の自由とは何か」「デジタルテクノロジーは人間の限界を超える支援となり得るのか」という問いであったように感じます。デジタル技術が高度化する中で、テクノロジーが自動的に価値や答えを生み出すわけではないという点が繰り返し示されてました。データやAIは重要な資源である一方で、それをどのような意図や価値観のもとで用いるのかによって、導かれる結果や社会への影響は大きく異なります。デジタルテクノロジーを活かしたビジネス創造においては、技術そのもの以上に、「何のために使うのか」「誰にどのような価値を届けたいのか」という思想のレベルまで掘り下げて考えることが不可欠であると感じました。
本授業は、最新テクノロジーに関する知識を得る場であると同時に、デジタル時代における経営者やビジネスパーソンとしての姿勢を見つめ直す機会を与えてくれました。今後、デジタル技術を活用した事業や意思決定に関わる際には、技術の可能性と同時に、その背景にある価値観や目的を問い続ける姿勢を大切にしていきたいと考えています。
最後に、本講義を通じて多くの示唆を与えてくださった王曦寧先生、門脇直樹先生、ならびに貴重な知見を共有してくださったゲスト講師の皆様に、心より感謝申し上げます。
経営管理研究科 修士二年
粟井 千寛

