2026年03月25日

【MBA】続・教員に聞く、授業では紹介できなかった本

慶應型ケースメソッドを中心としたKBSの授業では、白熱する議論の流れから「MBA生として読むべき一冊」や「最近面白かった本」を先生から紹介される場面があります。しかし大量の書籍や論文に触れている先生方にとっては、まだまだ紹介しきれていない「推薦したい本」があるはず、ということから始まった「教員に聞く、授業では紹介できなかった本」企画。
前回に続き、修士1年・2学期3学期の基礎科目(必修科目)を担当された先生方に、推薦する本とその理由を伺いました。MBA生が今学ぶべきこと、今後のビジネスや人生において糧になるものなど、様々な視点で紹介いただきましたので、ラインナップを紹介します。

芦澤 美智子 准教授が授業で紹介できなかった本

『現代語訳 学問のすすめ』

福沢 諭吉(著)、齋藤 孝(訳) ちくま新書

『夜と霧 新版』

ヴィクトール・E・フランクル(著)、池田 香代子(訳) みすず書房


『置かれた場所で咲きなさい 』

渡辺 和子 幻冬舎文庫

「再生の最前線に立ち続けていた時にこみあげた『こんなことが二度とあったらダメだ』との想いが原点となり私は教壇に立っています」
 毎年の授業で必ず伝えているこの言葉。今に繋がる研究と教育の原点です。
 企業再生の現場は過酷で「なぜなのか」を問い続けた日々でした。そんな時に、私の引き出し奥深くにしまってあった本の中でも、ふと思い出され支えになるものがいくつかありました。自分の視野の狭さ、視座の低さに気づかされ、再び前に歩みを進めるエネルギーを与えてくれる本。
 本は時空を越えて偉人に会える最高の場です。皆さんも、社会経済のリーダーとして道を切り拓くときに立ち返る本に出会えますように。

稲田 周平 准教授が授業で紹介できなかった本

『沈まぬ太陽』

山崎 豊子 新潮文庫

『トヨタ生産方式のIE的考察』

新郷 重夫 日刊工業新聞社

 まず、『沈まぬ太陽』は、航空機事故を題材とした長編企業小説です。作中では、労使対立や人事慣行、官僚的意思決定といった組織の構造的問題が、綿密な取材に基づいて描かれています。組織の中で生じる個人の葛藤が生々しく表現されており、今日の安全管理やリスクマネジメントの議論とも重なります。
 もう一冊は、『トヨタ生産方式のIE的考察』です。本書はトヨタ生産方式をIE(Industrial Engineering)の視点から捉えた著作で、学術に偏り過ぎず、かといって実務に寄り過ぎることもありません。絶妙なバランスのもとで、トヨタ生産方式の精髄が解説されています。入手困難な時期が続いていましたが、現在は復刻版も刊行されています。

岡田 正大 教授が授業で紹介できなかった本

『The End of Corporate Imperialism』

C.K. Prahalad、Kenneth Lieberthal Harvard Business Review Press


『The Fortune at the Bottom of the Pyramid』

C.K. Prahalad Wharton School Publishing

1.『The End of Corporate Imperialism』
戦略論の大家、ミシガン大学の故C.K. Prahaladが書いた、「企業帝国主義の終焉」をテーマにした小冊子です。

2.『The Fortune at the Bottom of the Pyramid』(日本語タイトル:「ネクスト・マーケット-貧困層を顧客に変える次世代ビジネス戦略」)
1のベースになったPrahaladの途上国研究です。特に開発途上国市場の経済的ポテンシャルをどう顕在化するか、という点にフォーカスしています。

 CSV戦略の論文では2011年のPorter&Kramerが有名なんですが、その潮流の原点はPrahaladにあります。Prahaladは、先進国企業が黙殺しがちな開発途上国市場にこそ、未来の市場成長機会があるという視点で立論しました。そこでは社会インフラも整備されておらず、経済格差がはなはだしく、飲料可能な水も電気やガスといったエネルギーへのアクセス、医療も制約が厳しいです。それらの課題をどうやって営利ベースで解決するか、そこに市場機会があるという発想で書かれたのが2の書籍です。当時はBOPという言葉が使われていましたが、底辺(Bottom)という響きが差別的であることから、現在は包括的市場(inclusive markets)という言い方をします。
 その研究の延長上に書かれたのが書籍1(企業帝国主義の終焉)です。2が途上国の「市場ポテンシャル」の視点で書かれているのに対し、1は市場にアプローチする「企業戦略」の視点で書かれています。先進国本社の主導で母国向けのビジネスモデルの焼き直しで各国市場を支配しようとするのではなく、各国地域の特性に根差した分散型の学習組織として、各市場の利害関係者を大切にして、各国に固有のビジネスモデルを構築する重要性を述べています。そこで触れられているのが自社、現地企業、NGO、政府、国際機関、消費者など多様な利害関係者によって構成される「クロスセクター型の戦略提携」です。多様な利害関係者の協働によって価値を共創することが強調されます。ヤマハ発動機の一般地船外機ビジネスもこの典型例です。
 近年、ウォートンスクールにいたEdward Freemanのマルチステークホルダー型戦略が米国経営学会でも注目されるようになりました。新自由主義型のstockholder supremacy(株主価値最優先主義)のもたらす限界をどう埋めて持続可能な世の中(平和を含め)にして行けるのか、大きな課題です。
(3月1日イラン攻撃が生じる中、インド、ベンガルールにて)

小幡 績 教授が授業で紹介できなかった本

『ブッダが説いたこと』

ワールポラ・ラーフラ(著)、今枝 由郎(訳) 岩波文庫

『窓ぎわのトットちゃん』

黒柳 徹子 講談社文庫

『ファウスト』(悲劇第一部・悲劇第二部)

ゲーテ(著)、手塚 富雄(訳) 中公文庫

『或阿呆の一生』

芥川 龍之介 岩波文庫 他

『歯車』

芥川 龍之介 岩波文庫 他

世の中に本物はほとんどない。
本もその例外でない。ほとんどの本は本物ではなく、読まないほうがいい。
本物でない本の価値はゼロではなく、負だ。読むと、心も頭も汚れる。そして、何よりも目が汚れる。
ビジネスにおいても、学問においても、真理を追究して、その結果として事をなすことを目指す場合は、心も頭も使ってはいけない。目だけだ。
分析は禁止。考えるな。目だけを見開け。見よ。観察せよ。
これをきちんと解説してあるのが「ブッダが説いたこと」(岩波文庫)。生きるためにも、ビジネスのためにも、これをバイブルとして推薦する。
この世には神はいない。神の使者もいない。自我なんてものはない。自分探しほど愚かで哀れなものはない。仏教は宗教でも哲学でもない。ただひたすら真実を見るためのものである。
すべてのビジネス書は捨てた方がいい。読むな。小幡績の本もだ。目が濁る。心も。
読むべき本は、真実に取り組んだ本物だけだ。その多くは古典だ。

別の角度から言うと、このような意味で読むべき本ではないが、私の言わんとすることが伝わりやすくなるかもと期待して、小幡の理想の学校、KBSのあるべき姿を示している「窓際のトットちゃん」を薦める。以前はゼミに入るための課題図書としていた。

本物の一例として、「ファウスト(悲劇第一部・悲劇第二部)」(ゲーテ・手塚訳)中公文庫。
若い時眺めたらなんじゃこりゃ。しかし、今の私にとっては、繰り返し読む本だ。年齢と学者という職業、それと私の汚れた心と欲望がそうさせるのだろう。しかし、みなさんも、つまらないと思っても、ぜひとも、悲劇第二部(下巻みたいな位置づけ)の中村光夫氏の巻末エッセイだけは読んで欲しい。
同じ趣旨だが、こちらはもっと直接的で俗っぽい、「或阿呆の一生」(芥川龍之介)。こちらは、高校生の時から好きだったが、今読むと、感じる痛みが私にとっても現実のものとなっている。もう少し小説風の方がよければ、「歯車」(芥川龍之介)。これは私が世界で一番好きな小説である。

スミスもマルクスもシュンペーターもケインズも、みな間違ったことも書いてあるが、真実に近づこうとした本物の姿勢がそこにある。そういうものは何度も読む価値がある。

そのような本を、私も書いてから、死にたい。

後藤 励 教授が授業で紹介できなかった本

『日本の医療と介護』

池上 直己 日本経済新聞出版

 医療や介護の制度は、国によってかなり異なります。他の国でうまくいっている制度でも別の国で取り入れるとうまくいかないこともあります。
 日本の医療や介護について学び今後の姿を考えるためには、これまでの歴史的な経緯についても幅広く知る必要があります。本書は、慶應医学部で医療政策の教授をされていた著者によって、これらについて大変わかりやすく書かれた本です。

齋藤 卓爾 教授が授業で紹介できなかった本

『新版 市場を創る:バザールからネット取引まで』

ジョン・マクミラン(著)、瀧澤 弘和(訳)、木村 友二(訳) 慶應義塾大学出版会

 以前から授業などでおすすめの本ありますか?と聞かれたらこれを薦めています。この本は、どのようなメカニズムが市場をうまく機能させているのかを、築地市場から資本市場まで豊富な例を使いながら教えてくれます。事業会社に進もうが、金融機関に進もうが、官界に進もうが、起業家を目指そうが、ビジネスに関わるのであれば市場と直面せざるを得ません。ぜひこの本を読んで、市場の理解を深めていただければ幸いです。

坂爪 裕 教授が授業で紹介できなかった本

『微笑みの国の工場:タイで働くということ』

平井京之介 臨川書店

 皆さんは、海外の工場に行かれて、次のようなことに疑問を感じたことはないだろうか。なぜ、現地労働者の大半は転職を繰り返すのか。賃金や待遇面以外にどのような要因が関連しているのか。また、ラインリーダーは、部下の働きぶりが悪くても、なぜ面と向かって指摘しないのか。さらに、生産ラインの実績報告において、労働者はなぜ時おり虚偽の申告をするのか。
 本書は、北タイの日系工場で働く現地の労働者に焦点を当てて、著者が工場とその周辺村落で行った長期のフィールドワークに基づいて、労働者自身も意識していない日常的慣習を文化として記述している。本書には、2つのテーマがある。1つは、北タイの農村出身者が近代的な工場労働にいかに適応しているかという点である。彼らはどの程度、農村の慣習やものの考え方を工場に持ち込んでいるのか、またその結果、日本人マネジャとの間でいかなる文化的衝突が生じているのか。冒頭に示した問いは、この部分に該当している。またもう1つは、反対に、工場労働が彼らの家庭生活にどんな影響を与えているかという点である。例えば、ここでは、なぜ彼らは工場労働を通じて稼いだ収入の大半を家に投資するのか、という興味深い問いが展開されている。北タイという地域の特殊性はあるかもしれないが、海外工場に関わりのある人には、ぜひ読んでもらいたい一冊である。

高橋 大志 教授が授業で紹介できなかった本

『金融工学入門 第2版』

デービッド・G・ルーエンバーガー(著)、今野 浩(訳)、鈴木 賢一(訳)、枇々木 規雄(訳) 日本経済新聞出版


『システムの科学 第3版』

ハーバード・A・サイモン(著)、稲葉 元吉(訳)、吉原 英樹(訳) パーソナルメディア

金融工学入門(Investment Science)
債券や派生証券など資産価格の評価方法を集中的に学べる教科書です。

システムの科学(The Sciences of the Artificial)
自然科学の議論も交えながら、意思決定を含む社会科学に関する幅広い議論を行っています。

武田 史子 教授が授業で紹介できなかった本

『恍惚の人』

有吉佐和子 新潮文庫


『非色』

有吉佐和子 河出文庫


『イン・ザ・メガチャーチ』

朝井リョウ 日本経済新聞出版

 皆さんは、小説を読みますか?私は、社会問題を感覚的に理解するのに、小説が役立つと思っています。ニュースなどのうわべの言葉だけでは分からない「痛み」や「リアル」が、優れた作家の筆力によって体感できるからです。
 まず紹介したいのが、有吉佐和子さんの『恍惚の人』。私が子供の頃に読み、衝撃を受けた本です。いまや認知症は身近な問題ですが、この本に描かれた「高速で徘徊する老人」の描写は強烈でした。認知症サポーターの講習を受けた今でも、心に深く刻まれています。
 同じ著者の『非色』もおすすめです。戦後、「戦争花嫁」として渡米した日本人女性が主人公です。行って初めて知る、夫への人種差別と貧困。昨今のアメリカ社会の分断が、実は長い歴史の積み重ねであることを痛感させられます。
 現代作家からは、朝井リョウさんの『イン・ザ・メガチャーチ』を。テーマは「推し活」です。ファンと運営、双方の視点から描かれています。「推す」という熱狂の裏側にある、マーケティングの冷徹さや残酷な現実に、背筋が凍るような感覚を覚えます。

中村 洋 教授が授業で紹介できなかった本

『21 Lessons 21世紀の人類のための21の思考』

ユヴァル・ノア・ハラリ(著)、柴田 裕之(訳) 河出書房新社

「AI時代における核心は、『不確実な未来への適応力』にある」というメッセージはいろいろと考えさせられます。

劉 慶紅 教授が授業で紹介できなかった本

『Strategic Altruism:Total Strategy Inspired by Kazuo Inamori's Management Philosophy』

Keikoh Ryu Routledge

 自著の紹介となり恐縮です。故稲盛和夫の経営哲学にインスパイアされながら、企業の倫理基準として、私が呈示した理論である「戦略的利他主義」について紹介して論じる専門書です。稲盛和夫氏の経営哲学は、日本や中国では著名ですが、欧米ではまだ知られてないので、それを紹介するとともに、私の仮説的理論である統合戦略論や戦略的利他主義を、UKの出版社からの英語による国際出版で呈示する試みです。アジアや日本の英知には見るべきものがあり、KBSで学ぶ学生の皆さんには、グローバルな視野を持ちつつ、自らの文化的バックグラウンドを活かして、発想し、実践をして、活躍していただきたいと思います。

 最後に、今回ご協力いただいた先生方にこの場をお借りして御礼申し上げます。誠にありがとうございました。

M48広報委員 市山 裕史

ナビゲーションの始まり