2026年09月9日

【EMBA】2026年「海外フィールドA: スリランカ」活動報告

 

2026年7月25日~7月31日の期間、EMBAプログラムE12の4チーム、計27名が海外フィールドAの一環としてスリランカを訪問しました。

各チームは異なる事業テーマを設定し、日本国内で約3か月にわたり事前調査を重ねました。そのうえで、自ら構築した事業提案を携えて現地を訪れ、スリランカの政府機関、企業、大学、業界団体との対話を通じて、その妥当性を検証しました。今回の現地調査は、新たな事業機会や社会課題への理解を深めるとともに、日本で置いていた前提をブラッシュアップし、新たな問いを得る機会となりました。

スリランカでのフィールドワーク

フィールドワークでは、各チームが日本での事前調査を基に事業提案を策定し、Board of Investment of Sri Lanka:BOI、Sri Lanka-Japan Business Councilをはじめ、研究テーマに関連する大学、行政機関、業界団体、民間企業などに提示しました。

現地関係者との意見交換を通じて、市場環境、消費者行動、事業を取り巻く制度や文化的背景について理解を深めました。また、多様な視点からフィードバックを受けることで、より実現可能性の高い事業提案へと発展させることを目指しました。

海外フィールドA・各チームの事業提案概要と学び

Team A: コンテンツIP教育事業から産業創出/伝統医療としてのアーユルヴェーダを日本へ

Team Aでは、二つの事業提案を行いました。
一つ目は、アニメなどのコンテンツIP創出に向けた教育事業です。その背景には、恵まれない若者たちのために新たな産業を生み出したいという思いがありました。しかし、現地調査を通じて、スリランカが直面する現実的な課題を認識しました。
スリランカでは、大学まで無償の教育制度が整備されている一方で、スキルを身に付けた人材が、より高い報酬を求めて国外へ流出する状況にありました。コンテンツ産業を創出し、優秀な若者を国内に定着させるためには、資金や支援先の確保も必要であり、事業化のハードルは想像以上に高いものでした。
一方で、いくつかの「希望」も見えてきました。その一つが、映画やテレビなどに詳しい国立ケラニア大学のパトリック教授が見せてくださった、学生たちが制作したアニメーションやドキュメンタリーです。いずれも、豊富な文化遺産を有するスリランカの魅力を伝える、素敵なコンテンツに仕上がっていました。日本文化にも精通するパトリック教授は、日本の絵日記などの文化を念頭に、「日本人には幼いころから『絵』でものごとを考える文化がある。スリランカにはまだ浸透していないんだ。時間はかかる」と語りました。
また、スリランカ滞在の終盤には孤児院も訪問し、未来への投資としてノートやペンを贈呈しました。ある少女が描いてくれたピカチュウの絵は、忘れられない思い出となりました。
二つ目は、伝統医療としてのアーユルヴェーダを日本へ正しく届け、日本の富裕層をスリランカへの医療ツーリズムにつなぐ構想です。
保健省や医薬品会社への訪問では、アーユルヴェーダの本質は「治療」ではなく「予防・健康維持」であることを学びました。このアーユルヴェーダの本質を「未病ケア」として高齢化する日本で展開していくコンセプトには、現地の方々から賛同をいただきました。また、ビザの制約を踏まえると、日本人セラピストの育成と、スリランカからのオンライン診療を組み合わせる方法が現実的ではないかという示唆もいただき、私たちは一定の手応えを感じました。
また、実際に本場のアーユルヴェーダを体験しました。オイルを頭に垂らす「シロダーラ」では、頭がクリアになるようなこれまでにない感覚を覚えました。チームメンバーの一人は、事業化に向けてリスクアセスメントを開始しています。
※訪問先である国立ケラニア大学のFacebookでも、私たちの取り組みをご紹介いただきました。

詳細はこちらから

執筆:金子 久伸

Team B: 伝統工芸テキスタイル、日本市場開拓の可能性と課題

Team Bでは、スリランカ製のテキスタイル製品について、日本市場での販路拡大をテーマに現地調査を実施しました。伝統工芸を生かしてブランド価値を構築するSelyn社との対話は、事業機会と課題を検証する重要な機会となりました。
Selyn社は、女性の持続的な雇用創出を理念とする社会的企業です。農村部の女性が糸の染色から手作業で行うナチュラルコットン100%の製品は、カラフルな色使いと手織りの温かみが特徴です。テキスタイルやインテリア用品、玩具などを展開しながら、フェアトレードや地域とのつながりを価値として、高付加価値・少量生産型のブランドづくりを進め、事業と社会的価値を両立させています。
Selyn社との議論では、セレクトショップ、ホテル、デザイナーとの協業など、Team Bが想定していた日本市場への参入仮説と同社のニーズに共通点があることを確認しました。一方で、Selyn社のブランド認知度や価格設定、日本の消費者の嗜好に対する理解不足も課題となり、ターゲット顧客の明確化と差別化戦略の重要性が浮かび上がりました。
これを踏まえ、Selyn社より、日本市場開拓における今後の継続的な協力への期待と、引き続き意見や提案を聞かせてほしいとの要望をいただきました。今回の訪問を機にそのようなお言葉をいただけたことを、大変嬉しく思っています。そして今回とりわけ印象に残ったのは、CEOの「伝統を守れと言うだけでは、伝統は残らない」という言葉です。この一言が私たちの心に深く刻まれ、市場との接点を創出することが伝統産業の発展にとって重要であると、あらためて認識させられました。
さらに伝統産業の持続的な発展を支える基盤として、人材育成の視点からスリランカ最高峰の民間デザイン大学であるAcademy of Design(AOD)を訪問し、伝統工芸を現代市場へ展開するためのデザイナーの育成状況について理解を深めました。一方で、優秀な人材の海外流出や職人の高齢化といった課題も顕在化しています。産業の持続的な成長には、人材育成に加え、商品開発や販路開拓を一体で捉え、市場とつながる仕組みを構築することが不可欠だと感じました。
このような課題に対して私たちが提案できることは、日本企業との協業機会を通じて、職人やデザイナーが活躍できる場を増やし、技術と才能がスリランカに根付く仕組みづくりを後押しすることです。今回の調査を、その第一歩としたいと考えています。

執筆:堀江 周子

Team C: 紅茶の国から、世界へ届ける抹茶

Team Cでは、スリランカ産の抹茶を新たな輸出産業の柱に育てることをテーマに掲げ、現地調査を行いました。
事業構想は、抹茶の製造・販売にとどまらず、アーユルヴェーダと茶道の融合、さらには茶畑における再生可能エネルギー技術の活用までを含む複合モデルです。調査前には、紅茶産業が中心であるスリランカにおいて、伝統と規制の壁を越えて抹茶が受け入れられるのかという懸念がありました。
調査は、茶畑を歩き、製茶工場の熱と匂いを感じながら、プランテーション企業や電力事業者を訪問し、サプライチェーンを体系的にたどる形で実施しました。その結果、事前に抱いていた懸念は覆されました。
第一に、紅茶関連企業が生存戦略として紅茶依存からの脱却を展望していること、第二に、抹茶は紅茶流通規制の枠外にあること、第三に、現地ではすでに抹茶の研究開発に着手している点から、既存の広大な茶畑と茶葉加工技術を生かし、抹茶ビジネスを成功させる糸口を得ることができました。
何よりも実り多かったのは、現地での「一期一会」の出会いでした。持参した日本の抹茶を点てて味わっていただいたほか、現地産抹茶との比較も行いました。茶畑では赤いかごを頭に掛け、茶摘みを教わりました。茶を摘む女性たちの明るい笑顔、茶葉の緑、青い空と白い雲は、忘れられない光景となりました。
また、高級リゾートのバンガローでは停電が発生し、通信が途絶しました。日本の日常を離れ、光と漆黒の時間を体感した経験は、大きな学びとなりました。日本では得難い経験の一つひとつから問いを投げかけられ、現場に立つことの重みを認識する研修となりました。

執筆:峯嵜 大

Team D: 日本とスリランカの文化を融合した高付加価値ウェルネス事業の創出

Team Dでは、日本で大きなムーブメントとなっているサウナの「整う」、すなわち心身の深いリフレッシュ体験と、スリランカに根付く伝統医学であるアーユルヴェーダの「癒やし」を融合させ、短時間での回復と長期的な体調改善を一体として提供する、プレミアムなウェルネス体験の共創をテーマとしました。東洋の二大ウェルネスを掛け合わせ、スリランカを実証市場として事業を立ち上げ、将来的には巨大なインド市場へ水平展開するという構想です。
現地では、スリランカ政府観光局(Sri Lanka Tourism Promotion Bureau)を訪問し、観光客に関するトレンドや課題認識、誘致活動の状況などについて伺いました。日本人観光客は前年比で大きく増加しており、宿泊客数の伸びに応じた金銭的インセンティブなど、誘客を後押しする制度も整備されていることが分かりました。
また、コロンボとゴール周辺の高級リゾート、サウナ、アーユルヴェーダ・スパなどを訪問し、設備の有無、客層、稼働状況、価格帯を調査するとともに、実際にアーユルヴェーダの施術を体験しました。さらに、Siddhalepa社(創業100年超のアーユルヴェーダ最大手)の会長や、ホテル経営に携わる方々へのインタビューを行い、各社のビジネス展開や想いなどを伺いました。
私たちの事業構想についても、個々の施術を単独で提供するのではなく、滞在全体のストーリーとして組み合わせることや、セラピストを両国で育て合う仕組みを構築することなど、幅広い助言をいただきました。
スリランカでは観光客が増加しており、市場としての魅力を確認しました。現地のサウナなどの施設は想像以上に整備されていた一方で、日本で定着している「整う」体験を意図して設計された施設はありませんでした。そのため、私たちの提案には事業機会があるとの手応えを得ました。
一方で、日本で設定していた前提は覆されました。「冷やす」という行為は、身体を温めて整えるというアーユルヴェーダの考え方とは相いれないため、サウナとアーユルヴェーダを一つの施術として「融合」させることは難しいことが分かりました。日本で約3か月をかけて組み立てた仮説は、現地の文化的な文脈と照らし合わせた結果、大きく変化しました。
しかし、この「融合の難しさ」に直面したことで、二つの文化を表面的に組み合わせるのではなく、それぞれの考え方を尊重しながら滞在全体の体験ストーリーを設計し、その体験を担う人材を育成することに本質的な価値があると理解しました。現地の文化や価値観に直接触れることで、当初の仮説を見直し、事業構想を再構築する重要性を学んだ現地調査となりました。

執筆:田中 浩之

現地で見えた、ビジネス機会と社会課題

インターネットやAIから多くの情報を得られる現代ですが、今回のフィールドワークを通じて、現地で人々と対話し、自らの目で観察することでしか見えてこない事実が数多くあることを実感しました。実際に事業の現場や人々の暮らしに触れることで、市場の実態や価値観への理解が深まりました。さらに、多様な業界や立場から集まったE12メンバーが、それぞれの知見を持ち寄りながら現地調査と議論を重ねた経験は、今後の実務や経営判断にも生かされる貴重な財産となりました。

最後に

本調査にご協力いただいた企業、大学、行政機関、業界団体の皆さま、現地でご支援いただいた関係者の皆さま、そして本プログラムの企画・運営にご尽力いただいた後藤先生ならびにスタッフの皆さまに、心より感謝申し上げます。

全体構成・編集:E12 広報委員 坂本 高史

ナビゲーションの始まり