2026年09月10日
EMBA2年次、前半の山場に「フィールド科目」があります。本科目は、1年次に学んだコア科目8領域の学びと気づきを活かして、地域や企業の発展に貢献する分析と提言をまとめる必修科目です。EMBA11期生(E11)は、徳島県を訪問する「地域創生」組と、EMBA卒業生が経営を担うペットフードなどを製造するリバードコーポレーション株式会社様を訪問する「企業研究」組の2組に分かれ、それぞれの課題に取り組みました。自治体のリーダーたちや国内企業の経営者や従業員の方々と直接交流し、現場を観察しながら、調査・分析・考察を通して、ありたい未来のビジョンからバックキャストした実行可能で持続可能な課題解決への施策の提言を行いました。
本記事では、徳島県で実施した最終提言発表と、4か月にわたるフィールドワーク全体を通した学びについて、レポートします。
地域創生に取り組んで9年目。徳島県での取り組みは昨年からスタートし、今年で2年目となります。徳島県庁から提起された課題は ①「県内人材の確保」②「教育再生」③「農林水産業におけるブランド化(美波町での6次産業化)」④「空き家対策-利活用」。この4つのテーマごとに4グループに分かれ、徳島県庁のご協力と徳島大正銀行の各種サポートをいただきながら、インタビューや現地調査を行いました。そして、7月、最終提言発表の場を迎えました。
本フィールド科目を通して、徳島には、壮大な自然、豊かな食や文化、そして温かい人のつながりという、魅力的な財産が数多く存在していることに気がつきました。
私たちが実感した魅力についてその一部を紹介すると、何よりもまず圧倒的な存在感を放つ「自然環境」が挙げられます。例えば、鳴門海峡の渦潮からは地球の持つダイナミズムやエネルギー、日本百名山の霊峰・剣山では標高1,955mから見渡せるどこまでも続く空と山々の広大さ、かずら橋や祖谷地域では川や滝の清涼さが感じられます。こうした豊かな自然に触れることで、活力や安らぎ、そして新たな創造へのインスピレーションが得られるように思います。また、豊かで時に厳しい自然環境の中で育まれた、素晴らしい「食」や「文化」にも出会えます。「人」や「挑戦の風土」として、徳島県出身で世界的に活躍するクリエーターや起業家が数多くいらっしゃること、そして、イノベーションや新規事業の創出を目指す若い世代を育み続ける想いと環境が存在することも、大きな魅力の1つとして注目されています。環境保護と持続可能性への取り組みも先進的で、国の2030年度温室効果ガス排出削減目標が2013年度比46%削減であるところ2年早い2028年度達成を目指しているほか、水素ハイブリッド実証などの先駆的な挑戦も行われています。徳島県への移住者は3年連続3,000人を超え、直近は約3,300人(67%が30代以下)となりました。まさに、鳴門の渦潮のように人々を明るい未来に巻き込んでいくエネルギーに溢れた場だと感じました。
これらの気づきを得ながら、考察を重ねて行った私たちの提言に対し、徳島県 後藤田県知事からは「『新時代に踊り出す』という県政のミッションに資する貴重な提言であった」、美波町 影治町長からは「自治体が元気になれば、県の元気に繋がり、ひいては日本の元気に繋がる。住民の皆様の多様な幸せの価値観を尊重しつつ経済を回す知恵を提言から得た」、徳島大正銀行 板東頭取からは「徳島フィールド科目生の30人が徳島を選び、深い議論をしたこと自体が大きな資産であり、地元も徳島の魅力を再発見し、連携の重要性を学ぶ機会となった」とのコメントを、それぞれいただきました。
「The future is now」 ―未来は今(ここ)にある。後藤田県知事からのフィードバックでいただいた言葉です。「未来」とは「今」この瞬間の延長線上にある。突然変異的に素晴らしい理想が叶うようなものでは決してなく、この瞬間、始まっては過ぎていく「今」という時の積み重ねが「未来」になっていきます。今という時間は過ぎてしまえば戻らず、不可逆です。だからこそ「時間」という資源は何よりも貴重であり、その貴重な今という時間の連続の先にある未来に対して、「ありたい姿」をバックキャストで描き、その実現に向けて、今に全力で集中することが出来うる何よりの道なのだと実感しました。この意味において、未来は今、私たちの手の中にあるとも言えます。勿論、不確実性の高い現代、思い描いた理想の実現は簡単なものではなく、たくさんの困難が発生します。しかし、だからといって、やらない理由にはならず、ありたい姿を思い描いてそれに向かって行動し続けることこそがリーダーに必要な資質であるという気づきを改めて得ることができました。これは、地域創生においても、ビジネスにおいても、共通する本質であると感じました。
予期した必然性と予期せぬ偶然性、両方の素晴らしい出会いにも恵まれました。訪問先やインタビューで出会った方々に温かく迎え入れていただき、地域創生における課題や孤独、悩み、本心からの声を聞かせていただきました。徳島に関わる多くの方々との温かい交流を通して、最終提言に向けて思考を深め 想いを高めながら、走り切ることができました。「今」というかけがえのない時間が重なって、出会い、この場所で共に過ごすことができたすべての皆様へ深い感謝をお伝えします。
また、学友たちと本気で議論を重ね、それぞれの異なる強みや経験を融合させられたことで、ひとりでは到達できなかった提言に辿り着くことができました。イノベーションとは「新結合」、異なるものの掛け合わせと定義されます。それぞれの個性が多様であるからこそ、イノベーションが発生し得る土壌となります。その点において、4か月間、同じ時間、同じ場所で、同じものを見て、同じものを食べ、同じ課題に取り組みながら、異なる意見や発想を持ち合えたことは非常に貴重なことでした。「違っていること」「多様であること」は本当に素晴らしいことだと実感しました。勿論、それぞれの個性が異なるが故に、時に、反発や分かり合えない痛みも伴います。しかし、それも含めて、得難い素晴らしい経験となりました。互いへの敬意を忘れず、率直に議論を交えながら、ミラクルな新結合を共に生み出していける学友たちへ、改めて、心からの信頼と感謝の思いを深めました。そして、各人それぞれが慶應義塾の学びの精神である「半学半教*」を経験することができた、豊かな時間だったのではないか、と振り返ります。
地域創生においても、ビジネスにおいても、物事を動かし変えてゆく原動力は、やはり「人」です。立場や役割とは関係なく、真摯な想いを持って動く人の元に、心を同じくする仲間、もの、資金、情報、という経営資源が集まります。与えられた資源の不均衡、それによって生まれる格差や閉塞感、綺麗事では上手くいかない現実など、乗り越えなければならない壁は様々にあるけれども、今、想いを持つ人が一人でもそこにいれば、そこが未来への起点となって、状況は必ず動き出す。その確信と学びを、本フィールド科目を通して得ることができました。
結びに、本年度のフィールド活動にご尽力いただきました後藤田正純 徳島県知事、影治信良 美波町長、板東豊彦 徳島大正銀行頭取、ならびに 徳島県庁、美波町、徳島大正銀行の皆様、そして、計88箇所に達する訪問先の皆様に厚く御礼申し上げます。
みんなと共に過ごせた場所だから、私にとって、徳島はキラキラと輝くかけがえのない場所になりました!未来に向かってこれからも徳島がたくさんの方々のかけがえのない場所となるように、つながり続けたいと思います。
また徳島でお会いしましょう!!
【活動概要と各グループの振り返り】
● 活動概要
3月末のオリエンテーション以降、徳島県・東京都・神奈川近郊にて全88カ所を訪問し、現地調査やインタビューを行いました。それらを踏まえ、各チームでディスカッションを重ね、提言を練り込みました。その結果、4つの各テーマへの提言は大元で「つながっている」という前提に気づき、テーマごとの4グループに加えて総括チームを自主的に立ち上げ、各提案の横串を通す提言を行いました。
● グループ1:"人"を起点に徳島の未来を創る「Connect&Create」
徳島の農業・林業・漁業・建設業に共通する「人材確保」をテーマに活動しました。フィールドワークで見えてきたのは、人材不足そのものよりも、魅力的な人・制度・資源が十分につながっていない現実です。徳島には既に、各産業で挑戦を続ける実践者がおり、人を育てるアカデミーや学校も存在していました。課題は、新たな仕組みをゼロから作ることではなく、今ある人や制度をつなげて活かし、その価値を最大化することだと考えました。そこで「人材ジャーニー」「付加価値向上」「組織」の3本柱による提言を行いました。仕事との出会いから学び・就業・活躍までをつなぐ仕組みづくり、場面×組み合わせ×ストーリーによる新たな価値の創出、そして官民を超えた人々を結び付ける場づくりです。4か月の活動を通じて強く感じたのは、地域創生の主役は制度ではなく「人」であるということです。人と人との今までにない出会いが新たな挑戦を生み、その挑戦が地域の未来をつくる。私たちは徳島で、その可能性を何度も目にしました。これからも関係人口として、徳島とのつながりを大切に育んでいきます。(リーダー:三富 龍介)
● グループ2:教育をハブとした持続可能なエコシステム創生
「教育」をテーマに活動しました。教育は百年の計と言われるように、中長期的に取り組み続けるテーマです。子どもたちへの教育は勿論のこと、年齢を問わず一生学び続けられる場として「教育でも選ばれ続ける徳島」というビジョンを掲げ、施策を検討しました。「点」となっている既存資源をオンライン・オフライン両手法により「線・面・立体」となっていくように、持続的に「つなぎ続ける仕組み」を整えることが本質課題と考察し、最初から大きな組織・ハコを作るのでなく、小さく始めて着実に実績を積むアプローチを提案しました。具体的施策を規模感に併せて「ホップ・ステップ・ジャンプ」と3段階で設定し、課題抽出・共有・更新を繰り返すことで教育と産業を長期にわたって連動させる設計をしました。徳島の素晴らしい取り組みが益々多くの方に届くよう、今後も徳島からの発信に注目し応援し続けます!(リーダー:日高 綾子)
● グループ3:美波町の資源をつなぐ「One美波構想」
徳島の農林水産物ブランド化と、美波町での6次産業化をテーマに活動しました。50名以上へのインタビューから、課題の本質は個別施策の不足ではなく、豊富な取組みが結びつかず価値が分散していることにあると考察しました。そこで、行政と地域の担い手をつなぐハブ「One美波」が、「価値を作る・伝える・可視化する」を三位一体で回す構想を提案しました。この「つなぎ、価値化する構造」は美波町にとどまらず、県の「攻めの農林水産業」や「食の宝島とくしま」の推進力となり、やがて日本の地域創生モデルへと広がる可能性を持つと確信しています。点をつなげば美波町は世界に届く----その確信を胸に、美波町から日本の地域創生モデルが生まれる未来を、これからも応援し続けます。(リーダー:野口 豪)
● グループ4:空き家を「徳島の未来をつくる地域資産」へ
空き家を建物単体として捉える「点」の対応を改め、徳島の固有資源(お遍路文化、自然、食、人の温かさ)を束ねる「面」の設計に転換する「一体型滞在エリア」モデルを提案。宿泊棟、地産地消の食事処、瞑想・写経・正座による内省の場、対話ラウンジ等の機能を地域内に分散配置し、町全体を「静けさ・上質さ・少人数性・地域らしさ」で統合する高付加価値滞在体験へ再編集することを示しました。政策的意義として、空き家対策・観光振興・地域創生・企業誘致/産業振興の4課題を横断的に解くハブとして機能することを提案しました。本提案に際し、徳島の未来のために真摯に向き合い、多大な協力をいただきました皆様に心より深く感謝申し上げます。(リーダー:山田 雄也)
●総括チーム:4つのグループの総括と横串提案
各グループの提案を貫くキーメッセージとして「点をつなぎ、面、そして立体へ」を掲げました。徳島を巡った4か月間を通し、徳島に魅了された私たち30人の熱い想いを、ご聴講いただいた皆様に受け止めていただいたと感じました。徳島と慶應EMBAの物語は、これからも続いていきます。(リーダー:磯部 佐和子)
【関連情報】
徳島県庁 「ようこそ知事室へ」
「面会 慶應EMBA(慶應義塾大学大学院経営管理研究科Executive MBA プログラム)学生26名 他」 (2026年5月28日)
「慶應EMBA11期生フィールド科目最終発表会」(2026年7月11日)
【EMBA】2026年度「フィールド科目」活動報告I (徳島県地域創生チーム①)(2026年5月21日)
【EMBA】2026年度「フィールド科目」活動報告Ⅱ(徳島県地域創生チーム②)((2026年7月10日)
文責:E11 広報委員 日高 綾子 および、各リーダー
