2026年07月21日

教員トピックス
劉 慶紅教授の新著『Social Isolation and Aging in Japan』が刊行されました

 

慶應義塾大学大学院経営管理研究科(KBS)の劉 慶紅教授による新著Social Isolation and Aging in Japan: Policy Responses through Gerontological Ethicsが、Palgrave Macmillanより刊行されました。
 日本は、世界に先駆けて超高齢社会を迎えるなか、高齢者の孤独・孤立が深刻な社会課題となっています。本書は、日本の独居高齢者をめぐる現状を、経営学に加えて、比較公共政策や政治学・経済学の視点も取り入れ、学際的に分析し、行政の福祉政策、地域コミュニティや家族の支援とともに、企業が事業を通じて果たすべき役割を「老年倫理(Gerontological Ethics)」の観点から考察したものです。
 大規模な定量データの分析とインタビュー調査を組み合わせ、人口構造の変化による家族関係の希薄化に伴って生じる文化的価値観の変化が、高齢者の健康状態や経済的な不安などを含む、社会的孤立の形成にどのような影響を及ぼしているのかを明らかにしています。また、社会的孤立を本人の意思による「能動的孤立」と、意思に反して生じる「受動的孤立」に区分し、それぞれに応じた支援のあり方を考察しています。さらに、日本の介護・高齢者支援政策の成果と課題を検討するとともに、日本と中国の比較を通じて、ある国で有効な制度や政策を他国へ導入する際には、それぞれの社会的・文化的背景や倫理観を考慮する必要があることを示しています。
 本書は、高齢者の尊厳、自律、社会参加を重視する「老年倫理(Gerontological Ethics)」の立場から、高齢者の社会的孤立を単なる福祉上の問題ではなく、社会全体で取り組むべき倫理的・政策的課題として捉え直しています。高齢化が進む日本社会の将来を考えるうえで、研究者や政策担当者、福祉・医療関係者に加え、企業や地域社会にとっても多くの示唆を提供する一冊です。
 本書は、高齢者福祉や社会政策を扱う研究であると同時に、劉教授がこれまで進めてきた市場戦略と非市場戦略の適切な統合を目指す「統合戦略論」や「企業と社会」をめぐる一連の研究を、超高齢社会の課題という新たな領域へ発展させた成果でもあります。これらの研究に共通するのは、経済性と社会性、競争と共生、自利と利他、個人の自律と組織・社会の秩序を対立するものとしてではなく、相互に関連する課題として捉える視点です。本書においても、高齢者の孤立を個人の問題としてのみ捉えるのではなく、家族、地域社会、企業および行政が責任を分かち合いながら解決すべき社会的課題として位置づけています。
 本書の刊行は、KBSが重視する、企業経営と社会の関係を多面的に捉える研究・教育にも貢献するものです。高齢化や社会的孤立は、社会保障や福祉政策にとどまらず、企業の人材マネジメント、地域社会との連携などCSR、さらには新たな事業やサービスの創出とも密接に関わっています。本書で示された学際的・国際比較的な視点は、KBSにおける「企業と社会」に関する教育・研究を一層充実させるとともに、日本社会が直面する課題を世界に向けて発信することで、KBSの国際的な研究プレゼンスの向上にも寄与することが期待されます。

書籍情報
書名: Social Isolation and Aging in Japan: Policy Responses through Gerontological Ethics
著者: Keikoh Ryu(劉 慶紅)
出版社: Palgrave Macmillan
刊行年: 2026年6月30日

■ 書籍紹介ページ(Springer Nature)
詳しくはこちら





ナビゲーションの始まり