慶應義塾大学ビジネス・スクール特別公開講座として、ラウィ・E・アブデラル教授(ハーバード大学ビジネススクール)による講演 “The Fragile State of the World” が2019年7月24日(水)19時から、同大学三田キャンパス北館ホールにて、約200名の聴講者を得て開催されました。

ラウィ・E・アブデラル教授は国際経営戦略の研究者として、世界で急速なグローバル化が進展していると言われているが、実際にはグローバル化は社会の不安定化を加速していること、いかに未来の経営を考えていくか、歴史やデータを踏まえて我々の考え方を整理することが大切であることを、以下の3つのテーマに着目して説明しました。

  1. 強国の変遷
  2. 国境と他国
  3. 格差と中央

アブデラル教授はまず、近年ITなどの分野で中国企業が台頭しているが、歴史的に見ると19世紀には中国が世界一の経済大国であり、それが変遷していることを理解することの大切さを説明しました。さらに、世界のGDP総額に対する各国のGDP比率を見ると、1870年には中国が約20%を占めて世界最大であり、その後米国が成長して1960年には世界の25%を占めるに至ったことをデータに基づいて説明しました。そして、2016年に再び中国が世界最大の経済国となり、また欧州連合も米国と同様に経済力が下降していることから、大局的に見れば経済の重心が西側の国々から東側へ移動し、その中心にある中国が復活し、米国と中国の2大国が異なるビジョンを持つライバル関係にあることを説明しました(1. 強国の変遷)。

次にアブデラル教授は、グローバル化がボーダーレスを加速すると言われていることについて、異なる側面に留意することの大切さを指摘しました。ボーダーレス化に向かいつつあった世界で再び国境の強化が進行していること、近年の大量の移民あるいは難民の移動によって、欧州のシェンゲン地域(国境での出入国検査無しで自由に往来できる国家)にさえ国境が建設されている事実を説明しました。こうした事実が、欧州各国による共通の難民解決策を困難にしている一因であることを忘れてはならないと、アブデラル教授は指摘しました(2. 国境と他国)。

グローバル化と同時に、所得格差と中道的政治勢力の弱体化という状況が進行していることも議論されました(3. 格差と中央)。最近の30年間、所得格差の拡大は、ほぼ全ての国家における共通の課題であり、人々が大量に国境を超えて移動し所得格差が拡大すると、各国で右派ポピュリズムが台頭するという現象が説明されました。その例として、英国での国民投票によるEU離脱決定、米国でのトランプ大統領誕生、フランス大統領選挙における極右政党代表の善戦などが示されました。さらに、右派ポピュリズムが台頭している国家においては左派ポピュリズムも台頭し、イタリアでは右派と左派による連立政権が誕生したこと、結果的に中道派の勢力が弱体化して分裂への圧力が強まっていることが指摘されました。

他の調査においても、特に所得格差が大きい英国、米国、オーストラリアの国民の半数以上はグローバル化の進展を好ましいとは評価しておらず、フランスでは国家による所得の再配分により格差が拡大していないにも関わらず反グローバル化が進んでいることが指摘されました。その一方で、途上国やアジア諸国はグローバリゼーションを支持しており、アブデラル教授は、西側の国々においてグローバリゼーションが崩壊する前に、発展途上国やアジア諸国がグローバル経済の恩恵を自国で実現できるかが重要であると指摘しました。

アブデラル教授はさらに、ここ100年ほどのグローバル化の進展を定量評価して分析すると、過去にも似た時代があり、1920年代末の世界恐慌から30年代、その後の世界大戦によって、グローバル化に向かう動きが一旦減速し、グローバル化の度合が大きく低下したこと、そう考えると私達は今、第2あるいは第3のグローバリゼーションの時代にいると捉えるべきだと説明しました。その上で、グローバル化を議論する際には、グローバル化自体が所与の動きなのではなく、世界で起きている現実を注意深く分析する視点と、我々が将来どんな社会を実現したいと考えるかが根本的に重要であり、企業を経営する一人一人が、そうした視点を磨いていくことの大切さを主張しました。最後に、アブデラル教授自らが最も好んでいるライナー・マリア・リルケ(Rainer Maria Rilke)の言葉「将来とはやって来るものではありません 自らが自分自身に届けるものです」(The future enters into us, in order to transform itself in us, long before it happens.)を引用して講演を締めくくりました。

参加者の声

  • 極めて示唆に富んだ内容であった。年齢にかかわらず「学ぶことの楽しさ」を改めて体験した。
  • グローバリゼーションの時代からポストグローバリゼーションの時代への遷り変わりを理解することができた。世界で今、何が起きているのか、俯瞰して見ることができた。
  • とても刺激を受ける講演で、日本では聴くことの出来なかった分析であると感じた。グローバリゼーションに対する認識が変わり、今までの自分の浅い認識を自覚した。地域ごとに、そして相互の関連に気を付けて構造的に見ていくことの重要性を知った。
  • 知的好奇心をとても刺激される素晴らしい講演だった。今日の議論の先にこれからのビジネスのあり方があると感じた。

開催概要

タイトル "The Fragile State of the World" -不安定化する世界-
講師 ラウィ・E・アブデラル教授(ハーバード・ビジネス・スクール)
開催日時 2019年7月24日(水) 19:00~21:00
会場 慶應義塾大学 三田キャンパス 北館ホール
会場アクセス
参加費 無料
定員 200名(先着)
言語 英語 ※逐次通訳つき

担当講師

Rawi E. Abdelal

Rawi E. Abdelal/ラウィ・E・アブデラル
ハーバード・ビジネス・スクール 教授

1993年ジョージア工科大学卒業(優等成績)。
1999年コーネル大学から博士号取得。
同年よりハーバード大学ビジネス・スクールで教鞭をとり、2013年より現職。
また2015年よりハーバード大学芸術科学学部のDavis Center for Russian and Eurasian Studiesの所長。
新興市場、グローバリゼーション、政府とビジネス、政治経済、国際経営などの分野で、教育と研究、企業へのコンサルティングを行っている。
論文、著書、ケースは100件を超え、多くの賞を受賞している。

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