研究科委員長メッセージ

「日本を先導する
   ビジネススクールとして」

慶應義塾大学大学院経営管理研究科 委員長
慶應義塾大学ビジネス・スクール 校長
中村 洋

KBSとは

KBSは、1962年に創立された日本で最も歴史のあるビジネス・スクールです。当初、短期のセミナーや1年制プログラムによる経営人材の育成をめざして創設され、1978年に日本で初めてMBA(経営学修士)を授与するプログラムを開設、さらに1991年には専門研究者を養成する博士課程を開設しました。2015年には、職責を果たしながら、より高いレベルの経営スキルを求める人を対象としたExecutive MBA(EMBA)プログラムを開始しました。

KBSは創立時からの呼称であり、現在は、慶應義塾大学大学院経営管理研究科(MBA、PhD学位を授与するプログラムを提供)と、慶應義塾大学ビジネス・スクール(短期間のエグゼクティブセミナーを提供)の両者を包括した名称です。

KBSが経済社会で果たす役割

グローバル化の加速、情報技術(IT)の普及、人口構成の変化、新興国の成長などといった世界レベルでの経済社会の急速な変化により、「経営」という視点での適切な意思決定が、今まで以上に企業や組織の発展および存続に直結しています。例えばグローバルな視点での海外拠点のマネジメント、新たなビジネス領域で活動する企業・組織との連携、買収といったダイナミックな場面に適切に対応していくには、自らの職務に限定された経験や、社内ベースのOJTによる人材育成だけでは困難で、専門的に経営を学び、実践的なスキルを身に付ける必要性が増しています。そういった環境において、ビジネス・スクールが果たすべき役割は、時代の変化と共にますます重要になると考えています。

KBSのミッションとプログラムの特徴

KBSは、新たな構想を作り実現するリーダーを育成することをミッションとして掲げています。そのために、多様な学生がともに学ぶ喜びを知ることができ、世界一線級の研究を発信し、実務経験と体系的知識を融合する場を提供します。

上記のミッションを達成すべく、KBSのプログラムには以下のような特筆すべき特徴があります。

①ケースメソッドを中心とした実践的教育
②「経営全般についての知識と実践力 × 専門性」を高めるカリキュラム
③国際的な連携
④慶應義塾大学の他研究科との連携



①ケースメソッドを中心とした実践的な教育

最初の特徴は、ケースメソッドを中心とした実践的な教育です。ケースとは、実際の企業や組織が直面した経営課題を記述した教材で、学生や受講者は、それを事前に読み込んだ上、各人の分析結果、意思決定の内容やその理由を、教員のリードの下で発表し、討論を重ねます。日本では、教育というと、教員が教え、学生は講義を一方的に聞いて知識を身に付けるという形式を想像しがちですが、実践的な経営能力を身に付けるためには、双方向型の授業方法が極めて有効です。同時に、そこに集まる人たちが多様な経歴や職種の人たちであることが重要です。多様性を有する集団からこそ、新たな知が生まれるからです。また、毎回のケース討議の場で自らの考えを説明し討論する過程から、単に知識を身に付けるだけでなく、リーダーシップや経営に対する使命感を養うことができます。

ケースメソッドでの学びは、単に実践的というだけでなく、分野横断的に知識を体系化するために有効です。例えば、ある戦略の実行にあたっては、組織の変更、不確実性への対処、具体的なオペレーション計画、経営環境の分析など、複数の分野にまたがる知識を同時に適用することが必要です。組織や人事を変えれば資金が必要になり、会社の財務会計を左右します。そういった複雑な経営の場面では、各分野の体系化された知識を、即座に、かつ的確に適用できるレベルの経営能力が求められます。

もちろん、それぞれの専門分野での先端的な知識も重要で、KBSは、経営に関わるそれぞれの専門領域に、各領域で活躍する先端の研究者を専任教員として揃えています。それらの教員が、各人の研究活動に基づいてケース教材を用意・作成し、ケース討議をリードしていきます。したがって、ケースメソッドの内容も、理論に裏づけられた学術的で体系的なものです。その点は、経験値ベースの内容を集めた他のプログラムとは異なる、大きな特徴だと考えます。


考えることに集中できるプログラム

KBSのカリキュラムは、ある期間、経営について学び考えることに集中する内容になっています。日本のビジネススクールの多くは、平日の夜間に通って授業に参加する形態を採用しています。しかし、ケースメソッドでは、その準備、討論、そして学んだことの振り返りや体系化のため、1日をかけて朝から夜まで、集中して取り組むことが大切です。

したがって、KBSのカリキュラムにおいては、仕事が終わって疲れた頭にさらに負荷をかける平日夜間は、一部の科目を除いて、カリキュラムの中核にはなりません。平日昼間を中心とした(フルタイム)MBAプログラムはもちろんですが、EMBAプログラムにおいても土曜日を中心にカリキュラムを構成しています。エグゼクティブセミナーも、一定期間合宿するセミナーと土曜日のみのセミナーから構成されています。



②「経営全般についての知識と実践力 × 専門性」を高めるカリキュラム

一部の領域で専門性を高めても、経営全般についての知識と実践力がなければ、その専門性を活かせません。KBSでは、経営全般で体系的に知識と実践力を高めるだけでなく、一つあるいは複数の領域で高い専門性を持つ人材(T型、マルチ・スペシャリティ人材)の育成をめざしています。

そのために、8つの領域(生産、会計、情報・意思決定、組織・マネジメント、マーケティング、経営環境、財務、総合経営)全てでケースメソッドを使った講義を行うとともに、それぞれの専門分野での専門科目を充実しています。専門性をさらに高めるため、(フルタイム)MBAプログラムではゼミナール活動を通じた修士論文作成を、EMBAプログラムでは個人研究を実施しています。



③国際的な連携

KBSのプログラムの第三の特徴は国際的な連携です。言うまでもなく、経済社会は急速にグローバル化しています。英語力を伸ばすだけではなく、文化や生活習慣の異なる異文化の中で、他人の意見に耳を傾け、自らの意見を堂々と発信できるような国際感覚を身に付けることは、これからのグローバル社会で活躍する人材には不可欠です。

KBSは、欧米だけでなく、アジア、アフリカ、中南米など、世界のトップスクールと連携しています。国際単位交換留学プログラムでは、世界のトップスクール48校(2023年9月現在)と提携し、希望する海外ビジネススクールへの留学だけでなく、提携校から多数の留学生を受け入れることで、KBSのキャンパスを国際化しています。また、海外の3校と提携しているダブルディグリー・プログラムでは、最短2年間で2つの大学院から学位を取得することが可能です。より長期(9ヶ月~1年間)の留学期間となるため、長期にわたり異文化に触れることで確かな国際感覚を身に付けることができます。その他にも、中国・韓国のトップ・ビジネススクールとの共同プログラム、日・米・欧・南米のトップ・ビジネススクール9校で「ビジネスと社会」について議論するCouncil on Business and Society、世界のトップ・ビジネススクール10校からなる教育連携機構「EMBAコンソーシアム」にも積極的に参加しています。

さらに、アメリカのAACSB International(Association to Advance Collegiate Schools of Business)の国際認証を継続的に取得し、AAPBS(Association of Asia-Pacific Business Schools)、PIM(Partnership in International Management)、EFMD(European Foundation for Management Development)といった国際団体でも活動しています。



④慶應義塾大学の他研究科との連携

KBSのプログラムの最後の特徴は、慶應義塾大学の他研究科との連携です。KBSの学生は、他研究科が提供する科目を履修することができるのはもちろんですが、医学研究科、健康マネジメント研究科、薬学研究科と連携し、3年間で2つの学位を取得できるデュアルディグリー・プログラムを用意しています。さらに、ビジネスには法律の知識が欠かせないことから、法務研究科(Law School)との提携科目を多数設置しています。また、2023年度からは、研究科の枠を超えた全塾的な取り組みとして、データサイエンスや環境などをテーマに大学院共通科目を設置しています。

結びにかえて

経済社会の国際化は日々進展し、このようなビジネス環境の中で新たな構想を作り実現していく経営人材へのニーズは高まっています。厳しい時代に先頭に立つビジネスリーダーを1人でも多く輩出するため、われわれは進化を続けていきます。これからの日本、そして世界のために、多くの方が当研究科の門を叩かれることを期待しています。

慶應義塾大学大学院経営管理研究科 委員長
慶應義塾大学ビジネス・スクール 校長

中村 洋
NAKAMURA, Hiroshi

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