2019.04.18

2019年度入学式(MBAプログラム)研究科委員長挨拶

皆さんKBSにようこそ。研究科委員長の河野です。KBSと言いましたが、正式には大学院経営管理研究科と言う名前です。学位を取得できる課程には研究科という名前を付けることが決まっているので、正式な名称は大学院経営管理研究科となります。ただし、この研究科が出来る前に、社会人向けビジネス教育を慶應義塾大学ビジネス・スクール(KBS)という名称で1962年にスタートしたので、今でも我々はKBSという名前を使っています。

経営管理研究科が出来たのは1978年。日本で初めてのMBA学位を出す課程です。その後、博士課程、単位交換留学、ダブルディグリープログラムができ、そして4年前からExecutive MBA(EMBA)という課程が始まりました。皆さんは全日制のMBAプログラムで、今年が42期になります。EMBAは今年が5期目です。KBSは他に企業人材を対象としてビジネス教育を行うエクゼクティブセミナーを開催しており、主に3つの柱で運営していることになります。入学にあたって皆さんに、この2年間がどのような生活になるのか、委員長として皆さんにどのようなことを期待しているかを話しておきたいと思います。

ビジネススクールに入る目的は経営学を学ぶことであると言われています。もちろんKBSでも経営に関する知識、あるいはスキルの学習をカリキュラムに組み込んでいますが、我々の使命はビジネスリーダーを育成することであり、皆さんが将来にわたって企業あるいは組織、団体、部門を引っ張っていけるリーダーになって欲しいと考えています。そのための手段として、知識やスキルを学ぶと位置付けて欲しいのです。ですから、知識を超えたマインドセットであるとか、リーダーとしての使命感であるとか、情熱や志といったものを身につけて欲しいと強く期待しています。それが最初に伝えておきたいことです。

すでに皆さんは知っていると思いますが、KBSではケースメソッドと呼ばれる教育方法を重点的に使っています。ケースには、実際の企業の事例、企業が直面した課題、企業・組織の歩み、部門の課題、そして担当者の悩みなどが記述されています。それを事前に読み込んで、自分ならどう意思決定するか、それはなぜかという論理を考えてから授業に臨むことになります。授業では、午前、午後で1日2ケース、専門科目を履修すると1日3ケースを使用する場合もあります。授業は最初にグループ討議、そしてクラス討議を行います。午後またグループ討議、クラス討議、これを毎日繰り返していくわけです。

今皆さんの机の上にたくさんの教科書と、その下に分厚いケース教材の束がありますが、実はそれは1年分ではなく、その何分の1かに過ぎません。これの何倍ものケース教材を1年目および2年目で読み込んで授業に臨んでいきます。

今、皆さんと私は正対していて、私が話して皆さんはノートやメモを取るというスタイルですが、こうした授業はほとんど無いと思ってください。教室ではコの字のように机がレイアウトされています。教員はケース討議をリードしますが、基本的には皆さんがケースを読んだ結果、例えばこの投資に賛成する反対する、この組織変更には賛成、反対、どうしてそのように考えるのか、といった話から議論がスタートします。発言した人に対して、こういう視点が足りないという別の人の意見があると、発言した人はそのやりとりから論理や多面的な視点を学ぶことになります。黙って聞いていては頭の上を議論が通り過ぎていくだけです。議論に参画すれば、自分の発言に対して別の人の意見が展開され、それによって自分の中で発言に対する責任意識が生まれます。もし本当の経営の場面であれば、それに従って動く人が何十人といて、彼らの運命を変えてしまうことになるわけです。そうした生きた経営の場面をこの教室の中で再現して学び合うのがケースメソッドです。

ですから事前の準備が必須、そして発言することも皆さんの使命です。発言をすればするほど多くのことが学べます。積極的に参加する中から、知識を得るだけではなく、それを腹落ちさせて経験値に落とし込んでいく、発言によりリーダーシップを発揮し、それにコミットするところからリーダーとしての資質を磨いていく、というのがこの研究科での勉強方法になります。

その中で気をつけてほしいことがあります。1つは、クラスの中では徹底的に議論するということです。教員が多く喋る授業は基本的に良くない授業です。皆さんが発言しないと教員は教えたくなってしまいます。そういう場面がなるべく少ない授業が良い授業です。誰かが発言し、他の人から反論が出て、また別の人が参加して議論が進む中で、教員は足りない視点を補い交通整理をしていく。そうした方法で授業が進むと、皆さんにとって充実した学びの多いクラスになります。ただ闇雲に喋るのではなく論理的に発言し合う、そうした授業が良い授業だと思ってください。クラスの中の発言点が皆さんの成績を左右します。KBSでは筆記試験の結果や出席回数だけで成績が決まることはありません。発言しなかったらどんなにペーパーテストでしっかり書いても2年次に上がれないかもしれないと考えて下さい。

ただし、徹底的に議論をしても、それはクラスの中での議論です。クラスを離れたならば、もちろんケースの話題を議論してもらって構わないけれども、皆さんの中で徹底的にコミュニケーションを図って欲しいと考えています。会社組織の中では、経験値の違う人や、多くの留学生、異業種・異職種・異文化の人たちが集まる環境で自由に議論できる機会は限られていると思います。クラスが終わった後、色々なバックグラウンドやキャリアプランを自由に話し合える仲間ができることはとても大切です。教員や事務スタッフも巻き込んで仲間を作り、先輩後輩も交えたネットワークが広がっていくのが、ここに来た皆さんにとっての大きな宝だと思います。ぜひ多くのコミュニケーションの時間をとって欲しいというのが2つ目のお願いです。

3つ目ですが、今世の中は非常に速く変化していると言われています。技術の変化、AI、IoT、あるいはグローバル化でボーダレス、こうしたことが盛んに言われ、変化についていけないとビジネスリーダーとしては遅れているという風潮があり、ネットにはそのような記事ばかりが載っています。ただし、少し考えて欲しいのは、その背後にある本質です。本当に変化しなければいけないことと、変化してはいけないことを見極めて下さい。自動化するとか、AIに置き換えることの背後には、人間に対する負荷や、開発コストの問題があります。例えば自動運転が万全ではなく、自動運転でもし事故が起きたら誰の責任になるのか、それをどうやって防ぐのか、そのためのコストはいくらかかるのかと、考えていくと複雑な問題があり、人として社会にいることの意義や価値を考えることが必要になるはずです。だから、変えていいことと変えてはいけないことを見極めながら、深い議論をして欲しいのです。

最後に、この学校は非常にタフな学校です。しかし同時に、非常に楽しい学校だと思います。さまざまなビジネスリーダーに触れられるチャンスです。学生の2年間は色々な場所に自由に行けます。会社に入ってしまうとライバル会社に行けない制約が生じたり、個人というより組織の看板を背負わなければならない場面がしばしばありますが、ここでの2年間は自由に企業訪問や工場見学に行けるし、インタビューも出来ます。このような機会をぜひ有効に使って欲しいのです。今皆さんはやや固い顔をして私の話を聴いていますが、徐々に皆さんが打ち解け、そして卒業する時、最初はこんなだったよな、と思い出すと、自分の変化・成長が分かると思います。ぜひ充実したKBSでの生活を送って欲しいと思っています。我々教員も職員も全力でサポートしていきたいと思っています。

MBAに42年間の歴史があるという事は、逆に我々に責任があるということですので、実りある学生生活を送り、そして我々教員にもフィードバックをしてほしいと思っています。改めて入学おめでとう。楽しく充実した2年間を送ってください。

2019年4月1日

慶應義塾大学大学院経営管理研究科

委員長 河野 宏和

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