2025年06月18日
要旨:
企業の社会的責任(CSR)と企業価値との関係に関する先行研究では、内生性の問題やCSRが企業パフォーマンスに与える影響のメカニズムが不明瞭であることから、一貫性に欠ける結果が報告されてきた。本研究は、2010年から2017年の日本の上場企業のデータを用い、日本の企業文化に三世紀以上根付いている伝統的商業倫理である「三方よし」の異質的効果に着目し、CSRと企業価値の関係を再検討するものである。
まず、企業の固定効果を用いた回帰分析の結果、CSRは企業価値および労働生産性の双方に正の影響を与えることが示された。媒介分析により、労働生産性がCSRと企業価値の関係を部分的に媒介することが確認され、Sobel検定およびGMM-IV回帰分析によってこの結果が支持された。内生性への対処としては、CEO出生地から、三方よしの発祥地である滋賀県までの地理的距離を操作変数として用いている。
さらに、どのような人的資源に対する投資が労働生産性ひいては企業価値の向上に寄与するかを検証した結果、女性取締役比率の増加が企業価値に有意な影響を及ぼさない一方で、女性従業員の雇用促進および女性を支援する施策の実施が、企業価値および生産性を高めるうえで、有意な影響を与えることが明らかとなった。2014年以降の取締役会の多様性促進および企業価値向上を目的としたコーポレート・ガバナンス改革、ならびに2016年の「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」制定を踏まえると、本研究の結果は時宜にかなった重要な政策的示唆を有するものといえる。
キーワード:
企業の社会的責任・三方よし・企業価値・労働生産性