11月26日(木)午後7:30から日吉キャンパス協生館5階のエグゼクティブセミナールームに受講者43名を迎え、村上裕太郎准教授の講演が行われました。

まず税に関する研究について、データやエビデンスに基づいて税が社会にどのような効果や影響を与えるかを見出す、という実証科学のプローチに基づく海外の一流学術誌に掲載された研究成果を取り上げ、その面白さをお伝えしたいとの趣旨が説明されました。因みに福澤諭吉が説いた「実学」の概念について福澤自身が「サイヤンス」とルビを付しており、これが実証科学にほかならないことも紹介されました。

最初のテーマは、村上准教授が2年ほど前から取り組んできた「脱税メカニズムの研究」で、税務当局からのデータ入手が困難な環境の中で、実験研究の手法で研究が行われていることが紹介され、「節税、租税回避、脱税」、「申告漏れ、所得隠し、脱税」の定義について解説されました。次いで、ゲーム理論や「合理的経済人の仮定」などの各種のケースが受講者に紹介され、理論的な均衡値を実験研究で立証することが困難なこと、効果的な税務調査(調査回数を極小化しつつ、申告税額を最大化する)のルールなどについて、受講者との対話を交えながら進められました。

次に、現在引上げが議論されている消費税について、消費税とはどのような税か、益税発生のメカニズム、消費税の逆進性に関する異なる切り口の議論が紹介されました。続いて、法人税と消費税についての一般的な議論(「法人税を減税し消費税を引き上げるのは、企業偏重・弱者切捨て」等々)について、仮に法人税を引き上げた場合の、価格弾力性が低い財への価格転嫁や人件費削減効果を通じた、個人への波及効果が説明されました。また、消費税の軽減税率導入についての問題点や簡易インボイス方式の欠陥を指摘され、米英で実施されている給付付き税額控除(負の所得税)を紹介されました。

3つめのテーマの法人税については、最近のグローバルな製薬会社の大規模合併で話題となっている、タックス・プラニングが取り上げられ、代表的手法であるDouble Irish with a Dutch Sandwichを紹介されました。そして、各国間の法人税率引き下げ競争はゲーム理論の「囚人のジレンマ」で説明可能で、各国が税率を引き下げない方が望ましいにも関わらず、均衡では税率を引き下げてしまうことを説明されました。また、会計利益と課税所得の一致性(Book-Tax Conformity)の違いで、各国企業の実質税負担率が大きく異なることが示されました。

最後に相続税について、The Review of Economics and Statisticsという一流学術誌に発表された論文をもとに、相続税率変更前後の死亡率統計数字の動きが説明され、本年1月1日から実施された日本での相続税増税前後の死亡率統計も併せて紹介されました。

結びとして、税のトピックで重要なテーマは、「みんなが喜んで税金を支払う制度設計」と「結果の平等から機会の平等を実現する応能課税システムの実現」であろうとの説明がありました。

質疑応答では、消費税を引き下げれば景気を浮揚できるのではないか、との質問に対して、消費税は消費活動に対してニュートラルな税で、1%は税収約2兆円に当たるが、実は景気への影響はさほど大きくないとの見解が示されました。また、節税と租税回避の差は何かという質問に対しては、ループホールを利用するのが租税回避ではないかとの説明がなされました。加えて支払わずに済んだ税金相当分を企業がどんな使途に充当するか、法人税を軽減している国々は何を目的にそのような税制を運用しているかも、検討が必要ではないかとのコメントがなされました。

参加者の声

  • 税に対してネガディブな印象を持っていましたが、科学的なアプローチで、人の行動がどう変わるのかを分かりやすく講演いただき、大変勉強になりました。
    (業種:鉄道 / 役職:課長補佐)
  • 日常の仕事の中では財務会計(企業の決算)を主として分析することが多く、税務会計については余り詳しくなかったので、どのテーマも新鮮で興味深かった。トピックス自体も聴講側が興味を持てるような構成となっていて良かった。
    (業種:金融 / 役職:取締役支店長)
  • 大変勉強になりました。難しい税金の話を身近なトピックも交えながら説明してもらうことができ、税に対する理解が深まりました。
    (業種:電気機器)
  • 法人税の価格転嫁や軽減税率に関しても、マスコミ等で言われているような一側面的なものではなく、「ある制度を導入したらどういうことが起きるのか?」と深く多角的に考えることができました。ありがとうございました。
    (業種:機械 / 役職:課長)
  • 普段仕事でみる事象、それに対する議論に対し、学問的視点での見解を示していただいたので、自分の中での見方が整理されました。
    (業種:医薬品 / 役職:課長)

開催概要

名称 2015年度KBS特別講座 ―EMBA開講記念企画― 第4回「税のメカニズムを科学する」(村上 裕太郎准教授)
日時 2015年11月26日(木)19:30~21:30(19:00開場)
会場 慶應義塾大学 日吉キャンパス 協生館5階エグゼクティブセミナールーム
会場アクセス
参加費 無料
定員 50名(抽選)

担当講師

村上 裕太郎
准教授

2000年上智大学経済学部経済学科卒業、2002年大阪大学大学院経済学研究科博士前期課程修了、2006年同後期課程修了(博士(経済学)(大阪大学))。名古屋商科大学会計ファイナンス学部専任講師を経て、2009年より慶應義塾大学大学院経営管理研究科准教授。

プロフィール詳細

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